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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)503号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人西村義太郎の上告理由第一点について。

原判決の認定するところによれば、被上告会社荻窪支店の庶務係長の職務はすべて庶務課長の下にあつて最終的には支店長の承認乃至指図によつて行い得るに過ぎないもので、即ち、庶務係長は支店長を補佐するものではあるが、支店の業務運営の便宜上内部的な組織として設けられたにとどまり、被上告会社を代理し得る権限があるものとは到底認められない。却つて、庶務係長甲田志善は何等の代理権限もないのに、これあるがごとく装い、上告人を欺罔して被上告会社と本件契約を結んだ事実が認められるというのであつて、原判決の認定には、何等条理に反したところがない。所論(イ)乃至(ハ)の各事項は、いずれも庶務係長に被上告会社のため取引する代理権がなかつたことの事情として認定されたものに過ぎないから、仮に、その認定に所論のような瑕疵があるとしても、庶務係長に代理権限なしとの終局の判断が直ちに違法となるものではない。論旨は、要するに原審の適法になした事実認定を争うものに過ぎず、採用することができない。

同第二点について。

民法一一〇条は、何等かの代理権を有する代理人がその権限を踰越して代理行為をした場合に関する規定である。ところで、原判決は前示のとおり庶務係長甲田志善は被上告会社のための如何なる代理権をも有しなかつたとの事実を認定しているのであり、且つ、その判断には必ずしも条理違反その他の違法ありとは認められない。論旨は結局、原審のなした適法な事実認定を争うものにすぎず、理由がない。

同第三点について。

商法四二条は、支配人が法律上当然に営業主の代理人たる地位を有することと対応し、使用人に対し支配人類似の支店長、支社長等の名称を附けた場合には、その者を支配人と同一の権限を有するものと看做し、もつて取引の相手方を保護しようとする趣旨に出た規定であるから、本件のような被上告会社荻窪支店における庶務係長のごときものが、同条にいわゆる「支店ノ営業ノ主任者タルコトヲ示スベキ名称ヲ附シタル使用人」に当らないことは、むしろ当然となすべきである。それ故、本件につき民法一〇九条の適用を否定した原判決の判断には所論のような違法なく、論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

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